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第1−0話 虎を被った少女

  7月6日の木曜日。高校に入学して約3ヶ月経ち、新しい環境にも慣れ始めた今日この頃。俺、右方修司(うほうしゅうじ)に突然起きた出来事だった。
「と、友達になって下さい!」
と彼女に告白されたのは。ガバッと頭を下げる彼女。その反動で長い黒髪がふわりと浮いた。そして前に出された一枚の紙。それを受け取れずに覗きこみ、恐る恐る読んでみた。
 『名前・橘柚希。身長178センチ・体重は54キロ・スリーサイズは上から83・61・85。血液型はO型で8月1日の獅子座。趣味は運動←体動かすことなら何でも好き☆。特技は雑誌を素手で破く←タウンページ位なら余裕☆。好きな食べ物は全部だけど、特に甘い物☆。嫌いな食べ物はないけどカニは苦手←食べにくいから☆。 以上☆」
読み終えた俺は取りあえず沈黙。そして思い切って聞いてみた。
「こ、これは、その、何ですか?」
同い年なのは知っているが、自然と敬語になり、声が上ずる。
「プ、プロフィールです。本に書いてあったから、です」
そのまま黙ってしまう彼女。
「な、なる程。はは、ははは」
全くわからん。愛想笑いを引き攣らせながら、恐らくこれ読んで友達になるか決めてくれって事だろうと勝手に予測する。まあ、彼女のことは前から知っていた。何せ高校の有名人だし。ただ、日頃の彼女のイメージとはだいぶ違ったけど。俺はとりあえず緊急の話題を口にしてみた。
「えーっと、とりあえずこのロープを外してもらえませんか?」
現在の俺。両手両足はロープで縛られ、床にうつぶせだったりする。
「だ、ダメ!……です」
「そ、そうですか」
涙目になりながら絶望した。そもそもさっき見せられた紙もなんだよ。そりゃ友達になる為には多少はお互いのこと知っている方がスムーズに事が運ぶのかも知れないが、スリーサイズはいらないだろ。確かにすごく良いスタイルしているし自分の長所と判断したのかも知れないが、同性を確実に敵に回すし異性は友達飛び越した関係狙ってくるだろ。んで特技のタウンワークを素手で破くって怖いよ。俺返答ミスったら身体を破かれんの?カニみたいに手足を引きちぎられるの?いや現実でそんな事ありえないのは重々承知しているが状況が状況だし、手紙の語尾の☆が狂気じみててありえそうだわ。そもそも以上☆ってなんだよ。欲しい情報0で終わらすなよ。まだ異常☆って笑えないブラックジョークが書かれていた方が自分がおかしいと理解しているんだなと安心出来るわ。そんな文句や愚痴を口に出せるわけでもなく、俺はがっくり肩を落とす。そして、この状況からの脱出を泣きそうになりながら、なるべく冷静になるよう努めて今日1日を思い返して考えた。


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